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Art Art Interaction Innovation

Ars Electronica Festival 2016

9月前半のことであるが、オーストリアのリンツで開催されたArs Electronica Festival 2016に行ってきた。

Ars Electronicaは1979年に始まり、世界最大のメディアアートのフェスティバルとして知られているイベントである。その中でも1987年から始まったPRIX Ars Electronicaでは、世界中のメディアアーティストが応募しとりあげられ評価される。このPRIXが1990年代から2000年代前半までのメディア・アート隆盛の中心となっていた言っても過言ではないだろう。PRIX Ars Electronicaでは、池田亮司、岩井俊雄、藤幡正樹、エキソニモ、黒川良一、SJQ++などなど、日本人アーティストも数多く受賞していて、世界に知られるきっかけとなっている。
しかしながら、Arsは、近年ではPRIXだけでなく、FuturelabArs Electronica Solutionsなど、取組みの領域を拡大している。

Ars Electronicaのその知名度と比べて、開催されるリンツという都市は、人口19万人程度の小さな都市で、空港から市街地へ向かう間の畑は、どこか北海道の帯広を思い出させるものがある。しかし小さいからこその地域住民との関係性の構築というのが機能しているようにも見える。

今回のArsElectronica訪問の理由は、長年行ってみたかった場所だったということと、Ars Electronicaの拡大しつつある取組みのひとつで、今年から始まったSTARTSというPrizeについて知りたかったからだ。
STARTSは、Science, Technology, and Arts の略で、科学、技術、アートが融合する領域における作品の発表や研究を行うアーティスト・Lab・スタートアップ等を評価するAwardである。

post office

さて、今年のArs Electronicaのメイン会場はPOST OFFICEという建物、広大な面積の郵便局の建屋であるが、STARTS Prizeの展示はPOST OFFICEのチケットカウンターがあるメインフロアの、一番目立つエリアで広範囲に行われており、アルスとしても力を入れていることが感じられた。

入り口ではスチロールを削るロボットアームが出迎え
STARTS PRIZE

同じフロアには、公募(?)の展示や、日本の大学の研究室(筑波大の落合研究室や、慶應の筧研究室、東大の山中研究室など)も展示していた。日本からの他の展示は、シャープのロボホンがデザイナーの名前で展示されていたり、和田永さんの作品や藤幡正樹さんの作品、bclの福原志保さんの作品など。また、別のフロアだがDommuneが現地から生放送を行っていたのが印象的だった。

さて、STARTSの展示は、昨今のトレンドということもあるが、バイオアート・ファッションの領域の展示が多かったように思う。パラメトリックデザインでいろいろなものを構成するトライアルも多かったように思う。全体的に面白いのではあるが、印象としては、従来ArsがPRIXを通して取り上げてきたようなアートの表現というよりは、デザイン・技術に寄っている印象があった(それ以上は汲み取れなかっただけかもしれないが)。今回が1回目ということだったので、今後擦り合わされてくるだろうし、世の中の表現も今後、よりアート・デザイン・テクノロジー・サイエンスが近づいたものに変わってくるだろうと期待する。

STARTSの展示エリアの反対側ではMakerFaireっぽいエリアがあり、ギークなプロトタイプが並んでいるため、このフロアだけ見るとここはMakerFaireかSXSWに来たかと錯覚するほどの印象だった。POSTOFFICEのメインフロアはおそらく意識的に社会と接点を持つ内容を集めたのだろうなと感じられた。

ここまで見たところで、あれ?Ars Electronicaってこういう感じだっけ?という印象もあったが、そこはやはりArs Electronica、メインフロアとは別の地下のフロアで、インスタレーションや大型の作品が展開されていた。今年のテーマRadical Atomsの副題「現代の錬金術士」に関連した作品群が展示されていて、とてもArs Electronicaらしいキュレーションになっていたように思う。
その中でも、この作品は非常に良かった。

Aquaphoneia / Navid Navab, Mihael Montanaro

音が水に記憶され、水が蒸発する瞬間に音が開放される、水をメディアとしてとらえた作品(と解釈しました)。非常に良いインスタレーションだった。

同じエリアには日本のアーティストの作品もあり、これもまた非常に良いサウンドアート作品でした。

最も印象的だった作品は、こちらのシャボン玉の作品。

Black Hole Horizon / Thom Kubli

映像主導の時代における、由緒正しいメディアアートという感じがして、こういう作品に出会えて非常に嬉しかった。
やっていることは、maxでおそらくランダムなタイミングで発音し、バルブを開いてシャボン玉を吹き出す。というものであるが、装置の大げささと、地下のロケーションで、漆黒のホーンから、透明な膜が出て来る、というミスマッチから来る美しさは、時間を忘れて楽しめる。(実際別の日にもう一度見に来てしまった)

STARTSに話を戻す。
STARTSでは、FITS COREというステージが用意されていて、そこで出展者やさまざまな関係者のプレゼンが行われていた。その中でも新しい文脈として興味があったのは、NTT研究所とArsElectronicaの協業についての発表だった。今年NTT研究所がArs Electronicaとの協業を発表しており、何やるのかなと興味があった。
Ars Electronica Solutionでは、アート作品を制作する際のノウハウを蓄積し、産業に転用するということをやっているようであるが、今回の件は協業例の一つであろう。内容については、オリンピックに向けて何かやる、という程度のものだったように感じられたが、今度の企業とArsの連携の成果に期待。

他の会場は、
アルスエレクトロニカセンター、OKセンター等いくつかに分かれている。
アルスセンターでは、今年のアルスのテーマである「ラディカル・アトムズ」の提唱者のMIT Media Labの石井Labの展示物が中心でなかなか見ごたえがあった。他にも8Kスクリーンが設置された部屋では、慶應の脇田教授と小室哲也氏の作品の上映などもあった。

Scalar Fields / 脇田玲, 小室哲哉

PRIXの受賞作品群はPOST OFFICEではなく、OK CENTERというところで展示されていた。作品の多くは事前に見たことのあるものが多かったので、特に印象はなかったが、どこかノスタルジーを感じる内容だった。新しい流れという意味では、グランプリ作品のRandom Darknet Shopperはダークネットからビットコインで様々なものを購入するボットの作品であるが、この作品に代表されるように、人と人工知能が共存した時に起こるインタラクションや表現に光が当たりつつあるように感じられた。

期間中、ドナウ川を挟んだ川沿いでDrone 100という大規模なショーが行われた。
文字通りドローンを100台使用して協調動作させる光のショーで、このプロジェクトはインテルの協賛の元、数年前からArsで実験を行ってきたもので、YouTubeなどで見たことのある人も多いと思われる。実際に生で見れる機会になったのはとてもうれしいが、実際のところ非常に企業色の強い内容(最後にでっかくIntelのロゴを表示してみんな苦笑い。インテルさん、スポンサーのやり方ほかにもあるのではと、、)でちょっと萎えたのが正直なところ。
その後花火ショーなどなどがあり、気候も相まって、日本の夏の花火大会の気分だった(実際観客も多くはビールと花火目的っぽい)。

Drone 100

ともあれ、展示・イベントも盛りだくさん(コンサートも。書き忘れたけど中山晃子さんのライブVJも最高に良かった。)で、見るものも多く、メディアアートとその周辺のいまを感じ取れた気がする。
一番大事なことは、ArsElectronicaは情報だけで得られる印象と、linzに行って体感する印象がかなり違う、ということを学べたたけでも行ってよかった。

リンツ空港付近

 

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