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Design Innovation

大企業がデザイン思考を採用する理由

ここ数年、日本の大企業においてデザイン思考/デザイン・シンキングが注目されている。このテーマについては一昨年あたりから様々な媒体で議論され尽くされているので、ここでは企業内の実務者の視点で、企業がデザイン思考を採用するに至る背景を論じてみる。

デザイン思考/デザイン・シンキングの詳細な理解はここでは特に重要ではないため、興味のある方は、各種文献やwikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3%E6%80%9D%E8%80%83
などを参照していただければと思います。

ビジネスにおけるデザイン思考の普及は、デザインコンサルティングファームのIDEOの貢献が非常に大きく、IDEOのTom Kelleyの著書はビジネスの現場(特に部長職の机の上などで)至るところで目にするところである。
一方で、普及すればするほど説明が簡素化され、断片化され、さまざまな「デザイン思考」の解釈が生まれているのも事実である。
特にマニュアル化が好きな(正確にいうと、効率化の名の下に、業務を人に所属させなくても業務が回るようにしようとする)日本の大企業としては、デザイン思考を誰でもすぐに理解しやすいように、ある特定のプロセスを取り出しフォーマット化してしまい、そのマニュアルを元にした社内研修などでデザイン思考を学んだ社員の間で様々な「デザイン思考」の解釈が生まれる。
その多くはエスノグラフィに力点を置き過ぎていたり、ダーティプロトタイピングの手法だけにフォーカスしていたり、と、様々だが、デザイン思考がそもそも「人間中心」で考えるためのデザインプロセスであるということや、発散・収束を繰り返す中で課題をリフレーミングするという視点が抜け落ちてしまうことも多いように思われる。

数年前までデザイン思考/デザイン・シンキングという言葉すら知らなかった会社でも、今や新規事業開発を担当する部署では必ず何かしらの形でデザイン・シンキングに触れているのではないかと思う。社内でデザイン・シンキングの推進担当などをやっている方達の中には、上記のような断片化されたデザイン思考の状況を理解している方もいればそうではない方もいるが、そのような誤解を含んだ状況にあってもデザイン・シンキングを社内で推進する意義はあると感じている方は多いのではないだろうか。

それでも僕らが大企業の中でデザイン・シンキングを推進する理由

それでも僕らが大企業の中でデザイン・シンキングを推進する理由、それは社員・社内の活性化に有効だからである。

デザイン・シンキングを推進するにあたり、まずどの企業でも行うことはデザイン・シンキングの「ワークショップ」である。(ワークショップについても言葉の意味合いが変化しすぎてて本来の意味合いとかけ離れているものもあるが、、その議論はここでは割愛)
このワークショップでは、社内の様々な部門から社員が集められ、ユーザー調査やアイディエーション、プロトタイプなどを通して、人間中心のデザインプロセスの一端を学ぶ。
このようなワークショップを経ることで、

  • 「必ず何かしらのアウトプットが出てくる」
  • 「普段ユーザーと関わらない社員がユーザーとはじめて関わるきっかけになる」
  • 「既存事業と切り離した文脈で実施するため社員同士の繋がりが生まれる」
  • 「新しい手法によって何かを達成したという成功体験が得られる」

などのポジティブな要素が多数あるため、会社役員への説明がしやすい。そのため、多くの企業でデザイン・シンキングのワークショップが頻繁に行われる状況がある。

一方で、こういった取組みの成果を引き継ぐ社内の制度が整っていない企業が多く、デザインプロセスから生まれたものが次のステップに進むケースは稀である。
また、手法の目新しさと達成感ばかりに社員の意識が向いてしまい、肝心のアイデアの革新性やビジネス実現性が低いケースも多い。新しい取り組みに対する企業内の仕組みと社員の意識の両方に課題があり、それらを解決する方法が求められている。

ここでは、大企業におけるデザインシンキングの普及の背景と課題について述べたが、上記に加えて、デザイン・シンキングにはそれ自体が抱える本質的な課題も存在している。それについてはまた別な記事としてまとめようと思います。

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