コペンハーゲンに留学します。

コペンハーゲンに留学します。

いままで企業の中で新規事業開発の仕事をしていて、様々なアプローチにトライしていく中で、アート視点からの問題提起のアプローチが新しい価値軸を生み出すのではないかという仮説の基に、時にはアートシンキングという表現で、時にはアートインタラクションという言い方で模索を続けてきました。
しかしながら、企業での取り組みはそれなりにやりがいはあるものの、企業ロジックに合わせていく中で、アートの強みを活かせない状況になってしまい本質が削がれてしまい、結果として革新的な新規事業をアウトプットできないという組織構造上の限界を感じたため、これを機に視点を変えたいという気持ちが高まり、新しい挑戦として留学を考えました。

実は準備期間がほぼ無く学校に出願してしまったため、2016年は非常にバタバタしてしまいましたが、いよいよ出発ということになりました。

いままで海外での生活を意識したことはあまりなかったのですが、
ここにきて、海外で、しかも個人での留学、という状況になり、不安でいっぱいですが、
30代後半からの単身海外デザイン留学(しかも英語ができない)という稀有な状況でありますので、もし似たような状況の人がいたら、応援する気持ちでこのブログ上で留学についてのあれこれを記載していきます。(もし失敗して泣いて帰ってきたとしても良いケーススタディになるのではないでしょうか)

ということで、どうなることやらわかりませんが、引き続きよろしくお願いします。
留学先については、またの機会に詳しく述べます。

Ars Electronica Festival 2016

9月前半のことであるが、オーストリアのリンツで開催されたArs Electronica Festival 2016に行ってきた。

Ars Electronicaは1979年に始まり、世界最大のメディアアートのフェスティバルとして知られているイベントである。その中でも1987年から始まったPRIX Ars Electronicaでは、世界中のメディアアーティストが応募しとりあげられ評価される。このPRIXが1990年代から2000年代前半までのメディア・アート隆盛の中心となっていた言っても過言ではないだろう。PRIX Ars Electronicaでは、池田亮司、岩井俊雄、藤幡正樹、エキソニモ、黒川良一、SJQ++などなど、日本人アーティストも数多く受賞していて、世界に知られるきっかけとなっている。
しかしながら、Arsは、近年ではPRIXだけでなく、FuturelabArs Electronica Solutionsなど、取組みの領域を拡大している。

Ars Electronicaのその知名度と比べて、開催されるリンツという都市は、人口19万人程度の小さな都市で、空港から市街地へ向かう間の畑は、どこか北海道の帯広を思い出させるものがある。しかし小さいからこその地域住民との関係性の構築というのが機能しているようにも見える。

今回のArsElectronica訪問の理由は、長年行ってみたかった場所だったということと、Ars Electronicaの拡大しつつある取組みのひとつで、今年から始まったSTARTSというPrizeについて知りたかったからだ。
STARTSは、Science, Technology, and Arts の略で、科学、技術、アートが融合する領域における作品の発表や研究を行うアーティスト・Lab・スタートアップ等を評価するAwardである。

post office

さて、今年のArs Electronicaのメイン会場はPOST OFFICEという建物、広大な面積の郵便局の建屋であるが、STARTS Prizeの展示はPOST OFFICEのチケットカウンターがあるメインフロアの、一番目立つエリアで広範囲に行われており、アルスとしても力を入れていることが感じられた。

入り口ではスチロールを削るロボットアームが出迎え
STARTS PRIZE

同じフロアには、公募(?)の展示や、日本の大学の研究室(筑波大の落合研究室や、慶應の筧研究室、東大の山中研究室など)も展示していた。日本からの他の展示は、シャープのロボホンがデザイナーの名前で展示されていたり、和田永さんの作品や藤幡正樹さんの作品、bclの福原志保さんの作品など。また、別のフロアだがDommuneが現地から生放送を行っていたのが印象的だった。

さて、STARTSの展示は、昨今のトレンドということもあるが、バイオアート・ファッションの領域の展示が多かったように思う。パラメトリックデザインでいろいろなものを構成するトライアルも多かったように思う。全体的に面白いのではあるが、印象としては、従来ArsがPRIXを通して取り上げてきたようなアートの表現というよりは、デザイン・技術に寄っている印象があった(それ以上は汲み取れなかっただけかもしれないが)。今回が1回目ということだったので、今後擦り合わされてくるだろうし、世の中の表現も今後、よりアート・デザイン・テクノロジー・サイエンスが近づいたものに変わってくるだろうと期待する。

STARTSの展示エリアの反対側ではMakerFaireっぽいエリアがあり、ギークなプロトタイプが並んでいるため、このフロアだけ見るとここはMakerFaireかSXSWに来たかと錯覚するほどの印象だった。POSTOFFICEのメインフロアはおそらく意識的に社会と接点を持つ内容を集めたのだろうなと感じられた。

ここまで見たところで、あれ?Ars Electronicaってこういう感じだっけ?という印象もあったが、そこはやはりArs Electronica、メインフロアとは別の地下のフロアで、インスタレーションや大型の作品が展開されていた。今年のテーマRadical Atomsの副題「現代の錬金術士」に関連した作品群が展示されていて、とてもArs Electronicaらしいキュレーションになっていたように思う。
その中でも、この作品は非常に良かった。

Aquaphoneia / Navid Navab, Mihael Montanaro

音が水に記憶され、水が蒸発する瞬間に音が開放される、水をメディアとしてとらえた作品(と解釈しました)。非常に良いインスタレーションだった。

同じエリアには日本のアーティストの作品もあり、これもまた非常に良いサウンドアート作品でした。

最も印象的だった作品は、こちらのシャボン玉の作品。

Black Hole Horizon / Thom Kubli

映像主導の時代における、由緒正しいメディアアートという感じがして、こういう作品に出会えて非常に嬉しかった。
やっていることは、maxでおそらくランダムなタイミングで発音し、バルブを開いてシャボン玉を吹き出す。というものであるが、装置の大げささと、地下のロケーションで、漆黒のホーンから、透明な膜が出て来る、というミスマッチから来る美しさは、時間を忘れて楽しめる。(実際別の日にもう一度見に来てしまった)

STARTSに話を戻す。
STARTSでは、FITS COREというステージが用意されていて、そこで出展者やさまざまな関係者のプレゼンが行われていた。その中でも新しい文脈として興味があったのは、NTT研究所とArsElectronicaの協業についての発表だった。今年NTT研究所がArs Electronicaとの協業を発表しており、何やるのかなと興味があった。
Ars Electronica Solutionでは、アート作品を制作する際のノウハウを蓄積し、産業に転用するということをやっているようであるが、今回の件は協業例の一つであろう。内容については、オリンピックに向けて何かやる、という程度のものだったように感じられたが、今度の企業とArsの連携の成果に期待。

他の会場は、
アルスエレクトロニカセンター、OKセンター等いくつかに分かれている。
アルスセンターでは、今年のアルスのテーマである「ラディカル・アトムズ」の提唱者のMIT Media Labの石井Labの展示物が中心でなかなか見ごたえがあった。他にも8Kスクリーンが設置された部屋では、慶應の脇田教授と小室哲也氏の作品の上映などもあった。

Scalar Fields / 脇田玲, 小室哲哉

PRIXの受賞作品群はPOST OFFICEではなく、OK CENTERというところで展示されていた。作品の多くは事前に見たことのあるものが多かったので、特に印象はなかったが、どこかノスタルジーを感じる内容だった。新しい流れという意味では、グランプリ作品のRandom Darknet Shopperはダークネットからビットコインで様々なものを購入するボットの作品であるが、この作品に代表されるように、人と人工知能が共存した時に起こるインタラクションや表現に光が当たりつつあるように感じられた。

期間中、ドナウ川を挟んだ川沿いでDrone 100という大規模なショーが行われた。
文字通りドローンを100台使用して協調動作させる光のショーで、このプロジェクトはインテルの協賛の元、数年前からArsで実験を行ってきたもので、YouTubeなどで見たことのある人も多いと思われる。実際に生で見れる機会になったのはとてもうれしいが、実際のところ非常に企業色の強い内容(最後にでっかくIntelのロゴを表示してみんな苦笑い。インテルさん、スポンサーのやり方ほかにもあるのではと、、)でちょっと萎えたのが正直なところ。
その後花火ショーなどなどがあり、気候も相まって、日本の夏の花火大会の気分だった(実際観客も多くはビールと花火目的っぽい)。

Drone 100

ともあれ、展示・イベントも盛りだくさん(コンサートも。書き忘れたけど中山晃子さんのライブVJも最高に良かった。)で、見るものも多く、メディアアートとその周辺のいまを感じ取れた気がする。
一番大事なことは、ArsElectronicaは情報だけで得られる印象と、linzに行って体感する印象がかなり違う、ということを学べたたけでも行ってよかった。

リンツ空港付近

 

大企業がデザイン思考を採用する理由

ここ数年、日本の大企業においてデザイン思考/デザイン・シンキングが注目されている。このテーマについては一昨年あたりから様々な媒体で議論され尽くされているので、ここでは企業内の実務者の視点で、企業がデザイン思考を採用するに至る背景を論じてみる。

デザイン思考/デザイン・シンキングの詳細な理解はここでは特に重要ではないため、興味のある方は、各種文献やwikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3%E6%80%9D%E8%80%83
などを参照していただければと思います。

ビジネスにおけるデザイン思考の普及は、デザインコンサルティングファームのIDEOの貢献が非常に大きく、IDEOのTom Kelleyの著書はビジネスの現場(特に部長職の机の上などで)至るところで目にするところである。
一方で、普及すればするほど説明が簡素化され、断片化され、さまざまな「デザイン思考」の解釈が生まれているのも事実である。
特にマニュアル化が好きな(正確にいうと、効率化の名の下に、業務を人に所属させなくても業務が回るようにしようとする)日本の大企業としては、デザイン思考を誰でもすぐに理解しやすいように、ある特定のプロセスを取り出しフォーマット化してしまい、そのマニュアルを元にした社内研修などでデザイン思考を学んだ社員の間で様々な「デザイン思考」の解釈が生まれる。
その多くはエスノグラフィに力点を置き過ぎていたり、ダーティプロトタイピングの手法だけにフォーカスしていたり、と、様々だが、デザイン思考がそもそも「人間中心」で考えるためのデザインプロセスであるということや、発散・収束を繰り返す中で課題をリフレーミングするという視点が抜け落ちてしまうことも多いように思われる。

数年前までデザイン思考/デザイン・シンキングという言葉すら知らなかった会社でも、今や新規事業開発を担当する部署では必ず何かしらの形でデザイン・シンキングに触れているのではないかと思う。社内でデザイン・シンキングの推進担当などをやっている方達の中には、上記のような断片化されたデザイン思考の状況を理解している方もいればそうではない方もいるが、そのような誤解を含んだ状況にあってもデザイン・シンキングを社内で推進する意義はあると感じている方は多いのではないだろうか。

それでも僕らが大企業の中でデザイン・シンキングを推進する理由

それでも僕らが大企業の中でデザイン・シンキングを推進する理由、それは社員・社内の活性化に有効だからである。

デザイン・シンキングを推進するにあたり、まずどの企業でも行うことはデザイン・シンキングの「ワークショップ」である。(ワークショップについても言葉の意味合いが変化しすぎてて本来の意味合いとかけ離れているものもあるが、、その議論はここでは割愛)
このワークショップでは、社内の様々な部門から社員が集められ、ユーザー調査やアイディエーション、プロトタイプなどを通して、人間中心のデザインプロセスの一端を学ぶ。
このようなワークショップを経ることで、

  • 「必ず何かしらのアウトプットが出てくる」
  • 「普段ユーザーと関わらない社員がユーザーとはじめて関わるきっかけになる」
  • 「既存事業と切り離した文脈で実施するため社員同士の繋がりが生まれる」
  • 「新しい手法によって何かを達成したという成功体験が得られる」

などのポジティブな要素が多数あるため、会社役員への説明がしやすい。そのため、多くの企業でデザイン・シンキングのワークショップが頻繁に行われる状況がある。

一方で、こういった取組みの成果を引き継ぐ社内の制度が整っていない企業が多く、デザインプロセスから生まれたものが次のステップに進むケースは稀である。
また、手法の目新しさと達成感ばかりに社員の意識が向いてしまい、肝心のアイデアの革新性やビジネス実現性が低いケースも多い。新しい取り組みに対する企業内の仕組みと社員の意識の両方に課題があり、それらを解決する方法が求められている。

ここでは、大企業におけるデザインシンキングの普及の背景と課題について述べたが、上記に加えて、デザイン・シンキングにはそれ自体が抱える本質的な課題も存在している。それについてはまた別な記事としてまとめようと思います。

デザインとアートの違い

「デザインとアートの違い」

これは様々なところで議論になるテーマではあるが、デザイン側からの文脈、アート側からの文脈、それぞれの視点で語られるため、平行線を辿ってしまうことも多い。
しかしながら、そもそもこの議論自体、本来意味が無いはずである。なぜなら何かしらのプロセスを経て何かを生み出すという点で、本質的には違いが無いはずだからである。「はず」といったのは、本質的には同じであるが、現実社会においての役割が異なるために、これらは別のものとして認知されている。

社会において、というと話が大きくなるので、わかりやすいところでは、大学や専門学校などの教育機関は、現在、芸術系とデザイン系は学科が別れているのが普通である。また、企業活動において、アート業界以外の分野では「アート」が職能として登場することはないが、「デザイン」は一般的な職能として認知されている。こういった企業側の要請もあり、デザインは企業の事業活動に取り込まれ、アートとデザインの境界が明確になっていったのではないかと推察する。

「デザインとアートの違い」の議論は上記の通り本質的には意味は無いが、現代の社会における認識をふまえての議論はこのブログで比較する際に重要なので、ここで仮に定義する。
デザインは課題の解決であり、アートは問題の提起である。
これは、Rhode Island School of Design(RISD)の元学長(現在は WordPress.comを運営するAutomattic社)のジョン・マエダ氏の発言が基になっている。
https://twitter.com/johnmaeda/status/2057122807

Design is a solution to a problem. Art is a question to a problem.

この定義は、肌感覚としては、日本でもここ2,3年の間、デザイン・アートの両面に何らかの形で関わる人達の間で一定の支持を得ているように思われる。
このブログでは、今後、特に断りがない場合は基本的には上記に準じて使用します。

Hello, Art Interaction

このブログ「Art Interaction Desing: アートとビジネスの間のインタラクションデザイン」では、ビジネスにおける事業開発・イノベーション創出において、近年注目されている「デザイン思考」のみならず、「アート」の視点をふまえた「アート思考」のアプローチでの価値創出の可能性の模索について、日々の経験に基づいてざっくばらんに記述していくブログです。

主なキーワードは、新規事業開発、イノベーション、デザイン、アート、Design Thinking, Art Thinking, Art Interaction, Art Interaction Design です。

新規事業開発に関することを中心に、アート、デザインについても書いていこうと思います。
ブログを書きなれないので、慣れるまでは各記事の完成に時間がかかることが予想されます。そのため当面は未完成の記事も【編集中】として下書きの状態で公開しつつ加筆修正を行なっていきます。